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東京高等裁判所 昭和61年(ネ)192号 判決

控訴人 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 沼野輝彦

被控訴人 スポーツ振興株式会社

右代表者代表取締役 木下俊雄

右訴訟代理人弁護士 藤井英男

同 古口章

右訴訟復代理人弁護士 藤井一男

同 関根和夫

主文

本件控訴を棄却する。

当審において追加された予備的請求を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

(控訴の趣旨)

1 原判決を取り消す。

2 控訴人が、被控訴人の所有する大厚木カントリー倶楽部ゴルフ場の四五ホールゴルフコースにつき、同倶楽部会員としてこれを利用する権利を有することを確認する。

3 被控訴人は控訴人に対し金一〇〇万円及びこれに対する昭和五二年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(追加的予備的請求)

1 控訴人が、被控訴人の所有する大厚木カントリー倶楽部ゴルフ場の四五ホールゴルフコース中、東コース、西コース、南コースの合計二七ホールゴルフコースにつき、同倶楽部会員としてこれを利用する権利を有することを確認する。

2 被控訴人は控訴人に対し金一〇〇万円及びこれに対する昭和五二年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被控訴人

(控訴の趣旨につき)

本件控訴を棄却する。

(追加的予備的請求につき)

控訴人の請求を棄却する。

第二  当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠の関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示及び当審記録中の書証目録記載のとおりである(ただし、原判決八枚目表七行目の「行為と」を「行為を」と改める。)から、これを引用する。

(控訴人の主張)

一  本件ゴルフ場は、当初から四五ホールのゴルフ場として計画され建設されたものであるが、このことは次の事実からも明らかである。

1 二七ホールのゴルフ場として計画され着工された後に、ほぼ同一の敷地内において三六ホールのゴルフ場に計画変更をするということは、造成許可の関係上及び造成工事の関係上、容易になし得るところではない。現に、二七ホールとしての計画を表示したパンフレット類には用地面積四五万坪とされているのに対し、三六ホールとしての計画を表示する「ザ・ゴルフ・ジャパン」では用地面積五五万坪とされているのである。

2 被控訴人主張の厚木ランド計画なるものは実在せず、実在していたとしても被控訴人が同計画を真に実現する意図を有していたかどうかは甚だ疑問である。被控訴人は、財産区林や共有林の払下げを成功させるための真摯な努力をしておらず、また、右払下げが不成功に終ったとしてもレジャーランドの建設が挫折する程の決定的な影響はなかったはずである。

3 ゴルフ場建設業者が最も腐心するのは、都道府県の林地開発許可の取得であって、そのために業者は種々の策を弄するのであるが、被控訴人も、地元への利益還元性の大きいレジャーランドの一部として小規模ゴルフ場の建設を申請して許可を得たのち、レジャーランド建設計画を故意に挫折させ、取得済みのレジャーランド用地の転用名目でゴルフ場の増設拡大を申請して許可を取り易くし、当初から目論んでいた規模のゴルフ場の建設に漕ぎつけるという策を弄したのである。

4 昭和四五年三月ころに七三〇〇名の会員が募集されたということは、ゴルフ場に関する社会常識からすれば、その規模が二七ホールではなく、四五ホールの計画であったことが明らかである。

5 控訴人が本件ゴルフ場に入会する際、被控訴人の営業部員は「将来四五ホールになる。」と説明したのであるが、ゴルフ場の会員募集がコースの形も無い時点から行われることからすれば、右説明は「現に取引されようとしている会員権の利用権の内容は四五ホールであるが、その実現は将来にまつ。」との趣旨であり、「将来四五ホールになるが、この契約による利用権の範囲は二七ホールに限定される。」というような趣旨ではないし、四五ホールが実現した時に追加の入会金が必要であるという場合は、その旨の特段の説明がなければならない。ゴルフ場会員権を販売する営業部員は誇大な甘言をもって客を勧誘するのが当然であるかのようにいう被控訴人の主張は、自己の社員たる営業部員の言動に対する余りにも無責任な見解である。

6 ゴルフ場の会員募集の実態からすると、会員募集広告に記載されるホール数や入会金額は、現に募集に当たっている営業部員を援護するための便宜を第一の目的として表示されるのであり、ホール数に相応して入会金額が定められ、それが広告に表示されるというものではない。

二  被控訴人の控訴人に対する本件ゴルフ場入会契約解除の意思表示は、効力を有しない。

1 預託会員制ゴルフ場における会則は、利用契約の一部として法的拘束力を有し、かつ、当事者間の債権債務関係を第一次的に律する明文の条項としての意味を有するものである。すなわち、預託会員制ゴルフ場においては、会員たる地位と利用契約当事者たる地位とが、いわば不可分のものとして構成されているのであって、前者の得喪は、即、後者の得喪にほかならない。したがって、会員の地位の喪失に関する会則八条は、契約当事者たる地位の喪失に関する明文の契約条項である。換言すれば、預託「会員制」という特殊の形態による利用契約の性質から、契約解除に関する一般法理が会則八条の「除名」という形式でより事態に即した体裁と内容のもとに明文化され合意されているということである。かくて、預託会員制ゴルフ場において会則に除名条項が定められている場合は、利用契約の解除は専ら同条項によるべく、これと別に、継続的契約関係における信頼関係破壊による契約解除という一般法理が適用されるべき余地はない。もとより、会則の除名条項は、契約解除の一般法理に比較して、ゴルフ場経営者の解除権を内容的に幾分制限した形で具体化されているが、それは「会員制」たる特殊な利用形態に起因する当然の制約であって、この制約が合意によって拘束力を持つところに「会員制」の実質があるというべきである。

2 仮に、本件ゴルフ場の入会契約の解除につき、契約解除に関する一般法理が適用され得るとしても、原審以来主張しているとおり、控訴人が四五ホールの利用権を有すると確信したことには相当な根拠がある(被控訴人の営業部員が控訴人に対し「将来は四五ホールにまで拡張される」と説明し、被控訴人が会員向けに発行した広報紙たる倶楽部ニュースの特集第二号、同第四号、同第七号、同第八号等の記事は右説明を確認する形で四五ホールの造成予定を宣言している。)のに対し、被控訴人は、膨大な数の会員を入会させたうえ会員名簿も発行せず、何らの説明もなく桜コースの追加入会金の徴収措置を強行し、これに応じない会員に対しては正会員性を否定して名義書換えを許さないという極めて強圧的で一方的かつ誠意のない態度に終始したのであり、このような状況下で、会社機関に等しい形骸化した理事会しかない団体である本件倶楽部の会員たる者の為し得る批判方法として控訴人の行動を評価した場合、これをもって信頼関係を破壊する行為ということはできない。

3 また、預託会員制ゴルフ場における会員の利用契約当事者たる地位は、単にゴルフ場施設を会員として利用し得るという機能的面のみならず、強い流通性を持つ財産権としての本質を有しているのであり、その契約の解除は会員から多大な経済的利益を一方的に剥奪することとなるのであるから、信頼関係の破壊を理由とする解除の法理の適用は、真に止むを得ない例外的な場合にしか許されるべきではない。すなわち、ゴルフ会員権は、通常、理事会の承認のもとに他に譲渡し得るものとされているが、この理事会の承認は、特殊な倶楽部の例外的な場合を除いてごく形式的なものにすぎなく、ゴルフ場経営主に所定の名義書換料さえ支払えば(本件倶楽部では五〇万円)、それだけで留保なしに会員権は転々譲渡される性質のものである。そして、この会員権の譲渡価格については一種の相場が立っており、本件倶楽部の会員権相場は、最近では六八〇万円程度となっている。利用契約の解除がなされると、経営主から元会員に預託金が返還されるから、解除が元会員に及ぼす影響は単に利用権の喪失に止まると考えるのは早計であり、預託金に比べて会員権相場は非常に高額であるのを常としており、本件で解除が有効とすれば、控訴人は(四五ホールの利用権があるものとして)、右相場六八〇万円と預託金六八万円との差額である六一二万円の利益を喪失させられることになるのである。

三  控訴人は、本訴において、主位的には、本件ゴルフ場の四五ホールゴルフコースにつきゴルフ場施設利用権があると主張するものであるが、仮に右主張が認められないとしても、本件ゴルフ場入会契約により、その四五ホールのうち、東、西、南三コース合計二七ホールゴルフコースにつき本件倶楽部会員としてこれを利用する権利を取得したものと主張する(元来、本件ゴルフ場においては、東、西、商三コースと桜コースの二ゴルフ施設は、建設時期や地理的観点から見たとき、決して一体不可分のものではなく、各々が別個の単位を成して会員の利用に供されているほか、現実に「倶楽部会員制度」においても、四五ホールのうち東、西、南三コースのみを利用権の対象とする、いわゆる「二七ホールズ会員」と、全体を対象とする「四五ホールズ会員」とが截然と区分され、いわば二種類の会員が併存している状況にある。)。右予備的主張に関する控訴人の請求原因事実及びこれについての被控訴人の抗弁に対する認否、反論は、右のほかは従前の主張のとおりである。

(被控訴人の反論)

一  本件ゴルフ場が、当初から四五ホールのゴルフ場として計画された事実はなく、桜コース一八ホールの増設計画は後日に至って立案され公表されたものである。

1(一) ゴルフ場の造成につき条例や行政指導等による厳格で総合的、包括的な制約が加えられるようになったのは、昭和四七年に自然環境保全法が制定された後(神奈川県においては、昭和四七年一〇月二一日神奈川県条例第五二号「自然環境保全条例」の制定以後である。)であり、それ以前は比較的自由であった。

(二) 本件ゴルフ場は、当初は二七ホールとして計画着工されたが、その用地面積は四五万坪もあり、当時におけるゴルフ場造成基準(一八ホールで二〇万坪以下)に比べて異例ともいえる広さであったから、その建設途上でこれを三六ホールに計画変更することは、隣地を多少買収する等の必要が生ずるにしても、極めて容易であった。

2 被控訴人は、昭和四三年六月ころに「厚木ランド基本計画」なる総合レジャーセンター計画を樹立し、その実現に努力したのであるが、右計画の実現が不可能となったため、やむなく計画を変更し、その予定地に桜コース一八ホールを造成することとしたのである。

3 前述のとおり、当時、ゴルフ場等の大規模開発行為の規制は、今日ほど厳しくなく、むしろ、危険防止その他の面でレジャーランドや遊園地等の建設の方がより厳しく規制されていたのであるから、ゴルフ場の造成のために控訴人主張のような策を弄する必要はなかった。

4 本件ゴルフ場の会員募集は、当初から二七ホールのゴルフ場として行われた。入会契約における利用権の範囲の特定は、入会勧誘の際に営業部員が提示し交付するパンフレットが基本資料となるというのが、一種の商的な慣行となっている。そのパンフレットも、机上の将来の構想までをも誇大広告的に記載する傾向が強いが、本件の会員募集に際して使用されたパンフレットに四五ホールと表示したものは存在しない。会員数が多くなったのは、被控訴人が大衆・開放志向のゴルフ場造りを目指して入会金を低額にしたこと、地価の上昇・造成費の高騰に伴い被控訴人の東京支社における会員募集活動が過熱傾向を見せたこと等が主な原因となったのである。

5 仮に、被控訴人の営業部員が「将来四五ホールになる。」と述べたとしても、控訴人に対して四五ホールの利用権が無条件で得られると説明したものではない。また、営業部員(多くは臨時雇で歩合給である。)は、成績を挙げるべく未確定の事でも既に確定した事実であるかのように匂わせるのは世間一般の常識であるが、そうであるからといって、それがすべて契約内容になるわけのものではない。

二  控訴人の予備的請求原因に対しても、従前の認否及び抗弁を援用する。被控訴人のした本件ゴルフ場入会契約(二七ホールの利用権のものとしても)の解除は有効である。

1 会則は、ゴルフ場利用契約の内容をなすものであるが、当該会則に明文の定めがない限り、被控訴人の側から一般法理に基づき、継続的契約関係である本件ゴルフ場利用契約を会員の背信行為を理由として解除することができないという理由はない。むしろ、本件の会則全体の趣旨からして、右一般法理の適用を特に禁じているとは見られない以上、これを適用するにつき何らの妨げはないと解すべきである。そして、本件ゴルフ倶楽部の会則では、除名(会則八条)以外にも、被控訴人において、止むを得ない事由がある場合は入会金を返還することにより会員のゴルフ場利用契約を終了させることを認める旨の明文(会則二一条)さえあるのであり、このことからしても、本件の会則が一般法理の適用を排除する趣旨でないことが明白である。

また、控訴人の背信行為は、単に会員から成るゴルフ倶楽部の組織における秩序を乱すという行為である以前に、被控訴人会社に直接向けられた信用毀損、業務妨害に当たる行為であって、かかる場合においては、被控訴人が本件ゴルフ倶楽部の理事会による除名処分を待つまでもなく、直接一般法理によって契約を解除し得るのは当然というべく、本件の会則が、このような場合の解除をも禁じているとは到底解し得ない。

2 控訴人の行為は、被控訴人が抗弁事実として主張しているとおり、継続的債権契約関係における信頼関係を著しく破壊するものである。

(一) 控訴人は、本件ゴルフ場の入会契約に際して、本件倶楽部の利用権の範囲が二七ホールであることを明記したパンフレット等を見ているのであるから、営業部員が述べたという将来の予測や入会契約成立後において将来の構想を表示した倶楽部ニュースの記載等から四五ホールの利用権を取得したと信じたとしても、それは控訴人が軽率に誤信をしたというにすぎず、根拠のある確信であるとはいえない。

(二) 控訴人は、被控訴人が本件倶楽部の会員宛に桜コースについての追加入会金の納入要請を発した昭和五一年一月ころから、「良くする会」を発足させ、以来一貫して、会員一般に対し、あたかも本件倶楽部の会員の全てについて当然に四五ホールの利用権があるかのごとき主張を前提に、右追加入会金の納入要請が違法・不当で詐術によるものであるという悪宣伝を、組識的・集団的に、かつ長期間にわたり執拗に反復継続し、これにより被控訴人の右追加入会金の納入要請業務に重大な支障を生ぜしめ、多大な損害を与えた。このように、控訴人は、単に自己のゴルフ場利用権について四五ホールを主張して追加入会金の納付に反対したというに止まらず、入会の時期や事情を異にする他の一般会員の全てに対する関係で被控訴人の追加入会金の納入要請が違法・不当で詐術によるものなどと中傷したものであり、明らかに相当な権利主張の範囲を逸脱しており、背信性が強度である。

(三) 右追加入会金の納入要請については、被控訴人は、会員一般に対し、昭和五〇年七月にアンケートを実施して以来、再三にわたり文書をもってその必要性の説明をし、万全ではないにしても、会員の意見を徴する方途を講じてきたのであり、事後における控訴人らからの批判や疑問に対しても、個別にあるいは会員一般に対し、必要と見られる限度において回答や説明を行ってきた。しかるに、控訴人は、右のような被控訴人の対応にもかかわらず、かつ被控訴人の再三にわたる警告をも無視して、前記の業務妨害行為を反復継続したのである。

(四) 控訴人は、右のほか、事あるごとに被控訴人につき、(1)本件ゴルフ場全体につき、維持管理がなされず、他に例を見ないほど劣悪なコースである。(2)桜コースの工事につき、許認可を得ず、防災工事も経ないで着工され、また資金繰りが覚束無いため完成が危ぶまれる、(3)被控訴人が昭和四九年から昭和五〇年にかけて数百名の新会員を募集し、昭和五一年一二月ころから更に新会員を募集中である、(4)被控訴人の会社内部で不正事件が続発している、などと、会員一般に対し事実無限の悪意に満ちた宣伝を反復し、これにより被控訴人及びその経営する本件ゴルフ倶楽部の名誉と信用とを著しく傷付けた。これらの行為は、いかなる観点からしても、正当な権利主張や批判活動の範疇には含まれないものであって、親睦団体であるゴルフ倶楽部の会員にあるまじき背信行為であることが明白である。

(五) 預託会員制のゴルフ倶楽部において、会員名簿を発行し会員数を公表することが望ましいことであることは認めるが、実情としては、会員名や会員数を公表していないゴルフ倶楽部も決して少なくないのであって、ゴルフ場経営者には当然にその公表義務があるかのごとき控訴人の主張には左袒し得ない。

また、被控訴人としては、会員からの正当な批判や建設的な提案に対しては、可能な限りに対応し、除々にではあっても本件ゴルフ倶楽部の人的物的施設の改善に努力してきたものであって、本件ゴルフ倶楽部の運用に関し問題があったにしても、他の手段によって改善を図ることが十分可能なのであって、控訴人のした業務妨害や信用毀損の行為が正当化されることはない。

3 控訴人は、ゴルフ場利用契約における会員たる地位が財産的価値を有することを理由に、その地位の剥奪には慎重であるべきであるというが、ゴルフ場利用契約における会員は、まずもって、信頼関係を基礎として成り立つ継続的契約関係における一方当事者たる地位に立つものであり、これなくして健全なゴルフ倶楽部の組織は成り立ち得ないし、合理的にゴルフ倶楽部を運用することも不可能である。控訴人は、このようなゴルフ場利用契約の契約関係を律するについての基本となる信頼関係を破壊する所為に及んだものであって、これがその解除原因となることに何ら疑問はない。

また、財産上の損失についていうならば、被控訴人は、控訴人の前記業務妨害及び信用毀損行為により、多大の有形無形の損害を被ったものであって、その損害額は、控訴人の本件ゴルフ会員権の価額とは比較にならないほど甚大である。控訴人の主張は、自己の不利益のみを強調し、その行為の及ぼした影響を全く無規し、それによる実害を顧慮しないもので、全く独善的なものというほかはない。

理由

一  ゴルフ場利用権確認請求について

1  請求原因1及び2の事実(被控訴人の営業と本件ゴルフ場の建設状況)は当事者間に争いがなく、同3の事実中控訴人が昭和四五年二月二一日ころ被控訴人に入会金六八万円を預託して本件ゴルフ場につき入会契約を締結したこと並びに同4の事実中被控訴人が昭和四五年一〇月三一日に東・西二コース、昭和四七年一一月一一日に南コース、合計二七ホールを完成オープンして控訴人にも利用させたこと及び被控訴人が控訴人の会員としての利用権は右二七ホールに限定されるとして桜コース一八ホールには及ばないものとする態度に出たことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  控訴人は、主位的請求として、本件ゴルフ場の四五ホールゴルフコースにつき本件倶楽部会員としての利用権がある旨を主張するが、当裁判所は、原審と同様に、右主張は理由がないと認定判断するものであり、その理由は、次のとおり付加し訂正するほかは、原判決理由第一項と同一であるから、これを引用する。

(一)  《証拠付加・訂正省略》

(二)  原判決一一枚目表七行目の次に「そして、同年四月一七日の東京新聞には、大厚木カントリー倶楽部の会員数が異常に過大で会員のプレーにも支障が生ずることが危惧され、当初発起人として名を連ねた財界著名人の中にも発起人を辞任する動きのあることなどが報道され、同月二三日の衆議院内閣委員会において右の問題につき質疑がなされ、また同年五月四日の週刊文春にも大厚木カントリー倶楽部の会員数が過大であることなどの問題点を指摘する記事が掲載された。」と付加する。

(三)  原判決一一枚目裏五行目の「余儀なくされた」の次に「(《証拠省略》中、被控訴人が当初から右厚木ランド計画を実現させる意思がなかったものであるかのようにいう部分は、措信することができない。)」と付加する。

(四)  原判決一二枚目表四行目の「非難の声があがっていたのを」を「非難の声があがり、また新聞、週刊誌などにも取り上げられて被控訴人の経営方針を追及する動きがあったことを」と改める。

(五)  原判決一七枚目裏七、八行目の「左右するに足りない。」の次に「また、《証拠省略》等、昭和四五年七月以降に刊行された新聞の広告や倶楽部ニュース等に、本件ゴルフ場が四五ホールであることを明示する記載が表われるに至っていることが認められるが、これらは、いずれも控訴人の入会契約成立後で、かつ被控訴人が同年三月三〇日の発起人会において四五ホール構想を正式に打ち出した後のものであるから、これまた右入会契約の内容についての認定判断に決定的な影響を及ぼすものではない。」と付加する。

3  してみれば、控訴人と被控訴人との間で成立した本件ゴルフ場についての入会契約によって控訴人が取得した利用権の範囲は、桜コースを含む四五ホールゴルフコースではなく、控訴人が予備的請求として主張するとおり、東コース、西コース及び南コースの合計二七ホールゴルフコースの限度であったといわなければならない。

4  そこで、被控訴人主張の入会契約(二七ホールゴルフコースについてのもの)解除の抗弁につき検討するに、当裁判所もまた右抗弁は理由があると認定判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決理由第二項と同一であるから、これを引用する。

(一)  《証拠訂正省略》

(二)  原判決一九枚目表九、一〇行目の「被告は、桜コース一八ホールにつき」を、「被控訴人は、前記のとおり桜コース一八ホールの建設を企画したが、林地開発行為の許可が遅れたり、その間における地価及び造成費の高騰等により資金計画の見直しを迫られ、昭和四八年六月付けの『会員の皆様え』と題する報告書等により、桜コースを大厚木カントリー倶楽部として建設することは金融関係の面で事実上不可能になったので、同倶楽部とは別個のものとして建設組織する旨を表明するなどの経緯があったが、ようやく」と改める。

(三)  原判決一九枚目裏四行目の「調査を実施し」の次に「(第一回目のアンケートは、新設一八ホールを大厚木カントリー倶楽部として建設運営し追加入会金一五〇万円を徴収する案と、新設一八ホール大厚木カントリー倶楽部から切り離し別個の倶楽部として建設運営する案のいずれを選択するかについて会員の意見を求めたところ、前者が四七八票、後者が一八三一票という結果が出た。しかし、被控訴人としては前者の案を望んでいたため、前者の追加入会金の額を五〇万円に引き下げて第二回目のアンケートを実施した結果、前者が一四四一票、後者が一一八八票となり、僅かの差で被控訴人の意図どおりの結果となった。)」を、同七行目の「決定し」の次に「(なお、クラブ理事会は、一〇〇〇名程度の新会員の募集も止むを得ないとの意向を示した。)」を、それぞれ加える。

(四)  原判決二三枚目裏四行目の「欠くことになるわけである。」に続けて「また、控訴人の会員権が二七ホールにのみ及ぶとの予備的主張との関係においても、控訴人が四五ホール全部に対し利用権を取得したと考えたことが誤りであったことは明らかであるのみならず、そのように考えた根拠は前認定の程度のものであって、万人を納得させるに足りるものではない。」と付加する。

(五)  原判決二五枚目表末行に続けて「これに反する控訴人の主張は、独自の見解にすぎず、採用の限りではない。もっとも、本件ゴルフ場が預託会員制を採用しており、会員の権利義務等につき会則を定めて理事会による運営を計っている点に鑑みれば、理事会の除名の決議によることなく被控訴人が契約解除の一般法理を適用して控訴人との入会契約を解除することは、慎重を期すべきであるのはいうまでもない。しかしながら、控訴人の行為が、その程度及び態様において親睦団体における会員として社会常識上許容し得る限度を越えたものであったこと、被控訴人による警告がなされたうえでの解除通告であること及び本件倶楽部の理事会も実質的には除名相当の意向を有していたこと等、前認定の事実に照らすと、ゴルフ会員権が相当の経済的価値を有するものであることを考慮に入れても、なお被控訴人のした契約解除は有効と解するのが相当である。」と付加する。

5  右のとおり、本件ゴルフ場の利用権の確認を求める控訴人の本訴請求は、主位的請求及び予備的請求ともに理由がなく、いずれも失当である。

二  不法行為に基づく損害賠償請求について

控訴人は、被控訴人が本件ゴルフ場の入会契約を解除して控訴人の会員資格を否定する挙に出たこと及び被控訴人が控訴人主張の期間にわたり本件クラブハウス内に控訴人の非行を指摘する公告文を掲示したことをもって、被控訴人が控訴人に対する不法行為を行ったものと主張するが、当裁判所は右の点についても原審と同様に控訴人の主張は理由がないと認定判断する(主位的請求として不法行為の主張のみならず、予備的請求についても同様である。)ものであり、その理由は原判決理由第三項と同一であるから、これを引用する。

三  以上のとおりで、控訴人の主位的請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却すべく、控訴人の当審における予備的請求も理由がないから棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森綱郎 裁判官 友納治夫 河邉義典)

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